孫子の兵法

中国の胡錦涛国家主席が訪米した際、ブッシュ大統領に孫子の兵法をプレゼントしたという。孫子は、洋の東西を問わず、戦争では、もちろん、政治やビジネスにおいてもよく言及される。しかし、受け止め方は様々で、結構、御都合主義のいい加減な解釈も多い。

今回のイラク戦争の開戦時に、ラムズフェルドが、閃光を出す大量の爆弾を開戦初期に投入するのは孫子の兵法にのっとっていると得意げに語った。この、いかにも薄っぺらな理解に唖然としたものだ。胡錦涛ならずとも、孫子は、戦わずに勝つのが上策だといっていますよと諭したくなるだろう。一方で、湾岸戦争を指揮したシュワルツコフは、明らかに孫子の兵法を自分のものとし、実戦にうまく活かしていたと思う。いずれにしても、アメリカの軍事戦略関係者の間では、朝鮮戦争以来、孫子は、よく研究されている。

戦略論の古典といえば、孫子、クラウゼヴィッツ、リデル・ハートの3人が必ず挙げられる。リデル・ハートが孫子をよく研究していたのは、有名だ。僕のみたところ、シュワルツコフは、湾岸戦争の時にリデル・ハートのいう間接的アプローチ通りに進軍ルートを選択した。これをみると、シュワルツコフへの孫子の影響は、イギリスのリデル・ハートを経由したものが多いのかもしれない。また、ドイツのクラウゼヴィッツも孫子の影響を受けたとする研究者もいる。つまり、ヨーロッパでも孫子の影響力は、大きい。

このように、よく読まれ、引き合いに出される孫子だが、ご都合主義のいい加減な解釈も多い。僕も何冊か「孫子」に関係した本を読んだことがあるが、単純な日本語訳は、理解しにくく、また、解説つきのものは、原文の趣旨そっちのけで著者の考えをとうとうと語っていて楽しくない。なかなかよいものがなかった。

最近読んだ、山本七平氏の「「孫子」の読み方」(日経ビジネス文庫)は、一番分かりやすくて楽しめた。山本七平は、孫子の本文批評から抽出した「原孫子」から読みとき、原文に真摯に向き合う。その上で、自身が体験した第二次大戦の日本軍の失敗や、日本の戦国時代の有名なエピソードにあてはめて解説をする。

僕は、軍事上の用語である戦略という言葉を安易に経営に使うのには、違和感がある。山本七平氏も、この本の序で「軍事は、そのまま経営の指針もしくは参考にならないはずだ。」と言っている。それでも、今のサラリーマンは、戦略を語らざるを得ない場面もあるだろう。もし戦略を語るのが毎日の仕事ならば、上記の軍事戦略の古典くらいは、目を通してほしいと思う。ちゃんと戦略論を勉強した人からみれば、リデル・ハートも知らずに戦略を語るなんて、ちゃんちゃら可笑しいだろう。

そうそう、脱線するが、先に戦略論の古典ベスト3の一つとして挙げたリデル・ハートは、日本人が一番知らないが、日本企業の戦略策定に一番参考になるように僕は思う。日本企業は、多様な商品を、多様な地域で展開し、環境の変化が激しいなかを長期に組織を維持発展させることを課せられており、クラウゼヴィッツのプロシアよりも、リデル・ハートのイギリスの環境に近いだろう。海外進出と多角化を果たした日本企業では、リデル・ハートのいう間接的アプローチがふさわしい場面が多いと思う。

ところが実際に企業で行われている戦略論議は、環境の変化が予測可能であることを前提として、選択と集中と称して定めた単純な目標に向かって一直線に戦術、戦闘の方法を定めようとするアプローチだ。こういう、少し頭のいい子なら高校生でもできるような「高校生的アプローチ」は、リデル・ハートのいう間接的アプローチの対極だと思う。まてまて、これもまた、原文に忠実でない、らくちんの勝手な論であった。

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