ジョブスと「厚み」戦略

前回、囲碁の「厚み」は、実利を生み出す経路が不確定であるにもかかわらず、投資するというのが、難しく、且つ、大切なポイントだと前回書きました。また、「厚み」は、築くことと同じくらい活かし方が重要だとしました。ここでは、アップルのスティーブ・ジョブスのスピーチやジャイアンツの打線などの囲碁以外の分野から「厚み」を考えてみます。

スティーブ・ジョブスは、昨年話題になったスピーチで、大学時代に、生きていくうえでなんら実践の役にたちそうもないのに、カリグラフ(飾り文字)の勉強を一生懸命したのが、後にマッキントッシュ・コンピューターを作る成功につながったと話しています。(ココ
彼は、学生さんにこういいます。
もちろん大学にいた頃の私には、まだそんな先々のことまで読んで点と点を繋げてみることなんてできませんでしたよ。だけど10年後振り返ってみると、これほどまたハッキリクッキリ見えることもないわけで、そこなんだよね。もう一度言います。未来に先回りして点と点を繋げて見ることはできない、君たちにできるのは過去を振り返って繋げることだけなんだ。だからこそバラバラの点であっても将来それが何らかのかたちで必ず繋がっていくと信じなくてはならない。
これこそが、「厚み」戦略なのだと思います。

Googleにしても、なかなかどのように利益を生み出すか明確でないなかで、シンプルなページを維持し、検索の精度をあげることによって、ユーザーの満足度を上げるようと精力をそそいでいたのが、「厚み」戦略といえるでしょう。(ココ参照)

身近なビジネスの場面でも、こういう「厚み」の理解が大切なように思えます。利益を生み出すようになる経路が具体的でなく不明確だけれども、将来役に立つものへの投資、それをどれだけ理解し、どれだけ後に活かすが、重要です。

「選択と集中」とか「戦略」とかという言葉を散りばめて、ターゲットを定めて効果の測定ができる施策だけに投資していて、結局、崩壊していく会社や組織をどれほど見たことでしょう。具体的にメリットを出す経路がはっきり予測でき、効果の測定ができる方策というのは、実は、限定された状況でのみ有効です。ですから、状況が変わる毎に方策を変えざるをえなくなり、「選択と集中」したはずのターゲットと組織を頻繁に変更せざるを得ず、迷走してしまうのです。

有限の能力しかもたない人間が、無限に変化する環境に対応するには、将来を予測不可能だと前提した上で、予測できない多様な状況に対応できる力を蓄えることが大切なのだと思います。

メーカーでは、基礎的な研究を続けること、サービス業では、新しいサービスの企画を色々と試み続けることが、「厚み」につながるようにみえます。また、国の経済でみたときは、その国の通貨が強いというのは、「厚み」になるように思えます。政治家で、党の幹部になっても、選挙区での辻立ちを続けている人がいるそうですが、そうして有権者の反応を日々確認していることが、彼の「厚み」となり政治力の源泉になっていることでしょう。このように、色々な分野で、「厚み」という考え方は、忘れがちだけども大切な発想だと思います。

ここで、「厚み」戦略で気をつけるべきことを、囲碁に戻って考えてみます。囲碁では、見方の厚みにも近づくなと言われており、すでに築いた厚みの周辺に石を打つのは、避けなければなりません。二重投資となって、石の効率がよくないからです。これは、「こり形」といわれ、悪形の見本です。ある囲碁の有段者の受け売りですが、4番バッターばかり並べたジャイアンツの打線は、典型的な「こり形」です。

一方で、効率性を追及し石を省略しすぎて、キリ傷が多く、完全に繋がっていないと「厚み」になっていないとして、大変な損失を招きます。実利を捨てて「厚み」をとっておきながら、結局、その「厚み」が弱いとなると、とるところがない大惨事で、もはやその碁は、おしまいになってしまいます。このあたりが難しいところです。

さてさて、らくちんは、ブログや囲碁にうつつを抜かしておりますが、これが、人生の「厚み」になれば、よいのですが。

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  • ATARIとAPPLE

    Excerpt: 趣味は? と聞かれれば、一応「囲碁です」と答えますが、そのきっかけはだいぶ変わっています。 最初に会社を起こしたとき、アメリカの人工知能を研究している教授から囲碁の思考ルーチンのライセンスを.. Weblog: 3度目の会社設立blog racked: 2006-09-20 07:40