縦深防御

日本の組織は、水際防御に固執し、縦深(じゅうしん)防御をうまくできない。原発も、トヨタのブレーキも、日本軍も。困ったことが起こる手前で完璧に防ごうと全力をそそぐが、一度、そこを破られてから抵抗する根拠を準備していない。日本製品の完璧な品質と過剰スペック問題も、根は同じかもしれない。

原発は、電源喪失しないように様々な準備がされていた。しかし、想定を越えたことがおこり、万一、全ての電源を喪失したときに、そこから頑張る根拠がほとんど用意されていなかった。

自衛隊のヘリコプターが、空から原子炉に水をまいている絵をみて、こんな方法しか原子炉にある燃料棒を冷やす方法がないのかと思うと、衝撃的だった。どうして使用済みの燃料棒のプールに、電気がなくても水を注ぐことができるじゃ口がついていないのだろう。水素が漏れてきたときに、建屋を爆発させずに、うまく希薄化して逃がす方法を準備していないのだろう、と、思ってしまう。

トヨタのブレーキもそう。ドイツ車は、緊急時に最後は、電気系統よりも、機械的な操作が優先するようにしていた。トヨタは、過酷な試験をして電気系統を完璧に鍛え、機械操作優先をはずしたという。それで最後までユーザーに疑念をいだかせてしまった。困ったことが起こる手前で完璧に防ごうと全力をそそぐが、一度、そこを破られてから抵抗する根拠を準備していない。

日本軍は、太平洋の島々の防御をするとき、米軍の上陸するところに、戦力を集中する水際防御を繰り返し、効果的な防御ができなかった。一兵たりとも上陸させないという、100点の防御を目ざし、それがダメなら、負けたと同じと、玉砕に次ぐ玉砕を続けてしまった。

民族性なのか、日本人は、歴史的にも縦深防御戦略が苦手らしく、採用例も少なく、まして、成功例は、稀有である。日本戦史において、ほぼ唯一といわれている、縦深防御戦略の成功例は、1944年9月のペリリュー島における、中川大佐の守備戦である。以下、「大本営参謀の情報戦記」(堀栄三)からの引用である。

幸い米軍の上陸までに、短いとはいえ四ヶ月の準備期間があった。そのため数線の陣地を孤島の中に準備し、第二線陣地には厚さ二・五メートルのセメントの掩蓋を作って大砲や機関砲を入れ、水際での早まった突撃はやめて、徹底した奥行の深い戦法で、米軍が奥に入ってくれば入るほど損害が多くなる戦闘を行った。その結果、九月十五日以降、十一月二十四日の中川州男大佐の自決に至るまでの二ヶ月以上を一個連隊を基幹とする部隊(約五千名)で、米軍二個師団と押しつ押されつの戦闘を繰り返して、文字通り米軍に悲鳴をあげさせただけでなく、山口永少尉以下三十四名は、連隊があらかじめ作った最後の砦である地下壕や洞窟を利用して、ゲリラ戦に転じて昭和二十二年四月二十一日まで戦闘を続けていたのである。

想定を越える悪い事態が起こっても、さらに悪い事態に進むのを食い止めるよすがを、あらかじめ準備しておくということが、大切だと思う。潔く散る美しい作戦よりも、奥行きの深い泥臭い作戦の方が、現実には、より有益だ。

例えば、今回の原発で、薄い放射能物質を含む水を海に流した。せめて、入江の中の方に流して、拡散する時間をかせぐ方法を準備できなかったのだろうか。また、今後の復興の際には、例え高さ25mの5階建ての避難所であろうとも、それを越える津波が来たときに備え、水に浮かぶ救命胴衣を準備するべきだと思う。

そういう発想に対しては、そういうことが起こらないように全力を尽くせと、メディアが批判しそうである。「救命胴衣を準備するよりも、絶対に津波が来ない高さのビルを建てろ。」と。それが、日本人の性癖なのだろう。でも僕は、たとえ、高さ40mの避難所にでも、救命胴衣を準備するという発想の方を支持する。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 16

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス

この記事へのコメント

らくちん
2011年04月24日 17:47
すぎしたさん、コメントありがとうございます。ほんとほんと、相撲協会もそうですよね。「人の情ですから、八百長的情感というのは、あるかもね。」くらいにして、株式会社にしておけばよかったですねえ。
すぎした
2011年04月19日 22:47
相撲協会もそうですね。
「八百長はない」という水際でがんばっていたから、いったん動かぬ証拠が出て来ると、一気に本場所中止まで追い込まれる。
らくちん
2011年04月17日 15:11
Naniwa no Nagoriさん、コメントありがとうございます。前線への補給を常にこころがけたいものです。みにつまされますなあ。
Naniwa no Nagori
2011年04月15日 12:22
たびたび失礼します。後苦手なのが補給ですね。どうも、福島の最前線で働いている人たちの食事、睡眠、用便、リラクセーションにはあまり配慮されていないようです。週刊誌を見ても、マルハの魚ソーセージの箱の写真が移っています。糞尿の悪臭の中で、雑魚寝をして、魚ソーセージとカロリーメートを食して、プレッシャーと放射線のもとで復旧作業に当たるなど、本当にどこまで体力と集中力が続くのだろうかと心配になります。これも前の戦争の時の飢えと消耗の中の戦いを思い出しますね。

この記事へのトラックバック