メディアとサービスとモノ

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脱産業社会におけるビジネスは、どうなるのか。産業化社会とは、煎じ詰めれば、モノの生産に重点をおいた社会であった。そこから、脱産業化社会は、消費者へのパワーシフト、情報化、サービス産業化、という波にのりながら進んでいく。具体的なビジネスとしては、従来のモノビジネスに、情報化に対応したメディアビジネスとサービスビジネスをどう融合するかが鍵になるだろう。

近代以降の産業社会から徐々に脱するとともに、まず、生産から消費に、パワーシフトが起こった。そこで、日本の消費者市場の活性化が叫ばれて久しいが、芳しい成果が出ない。情報化社会とか、サービス産業化と言われているが、その言葉にふさわしい革新的なビジネスが日本から登場しない。そのうちに自慢のモノ作りビジネスも心もとなくなってきた。ここでは、これからの消費者ビジネスの、戦略というか、考えかたのヒントのようなものを提示したい。

脱産業化社会の消費者ビジネスでは、情報化とサービス産業化が進行している。ものすごくはしょっていえば、脱産業化社会のビジネスは、消費者向けビジネスにおける、情報化とサービス化に上手く対応したものが、成功する。

そこで、まず、図を見て欲しい。(画像をクリックしてください)ここでは、脱産業化社会での具体的にイメージできる重要なビジネスの要素として、モノビジネス、サービスビジネス、メディアビジネスの三つをあげている。ここでは、「情報化」という抽象的な概念を、「メディア」に置き換えてみた。若干の意味の矮小化はあるが、現実のビジネスで明確にイメージできる利点のほうをとった。

○ モノビジネス
産業社会から続く、モノを生産し販売するビジネスである。モノの生産ビジネスは、技術移転の容易なデジタル技術の普及により、グローバル競争のもと中国から大量の安い製品が流入し、収益率の悪化に苦しんでいる。また、モノの販売ビジネスも、特に、中間卸し業者(B2Bビジネス、ミドルマンとも言われる)は、中間マージンが削減され、最後には、バリューチェーンからはずされるうきめにあってきた。つまり、モノビジネスは、いまや、収益率の悪化にのたうちまわっている。

○ モノビジネスのサービス化
先進的なモノビジネスは、収益率の向上を図るため、サービス的付加価値を追求している。iPODは、ハードの販売ビジネスでありながら、楽曲の配信サービスで付加価値をつけた。これほど先進的でなくても、いまや、どのモノビジネスも、サービス的価値の付加なくして、生き残れなくなっている。

○ サービスビジネス
他の先進国同様、日本においても、サービスビジネスは、これからますます拡大し重要になってくる。サービスビジネスの特徴は、無形性、個別性、同時性である。もともと純粋なサービスは、マッサージにしろ、クリーニングにしろ、ヘアサロンにしろ、無形である。また、顧客に個別に対応すればするほど、付加価値が高くなる個別性を特徴とする。無形であり個別対応であるが故に、生産と消費が同時に行われる。経営学やマーケティングの教科書では、第一ページに、サービス業の本質として、同時性が最も多くあげられている。

ところで、サービスは、生産と消費が同時に行われるために、モノのように作り置きができず、一度に大量に販売できない。また、個別性こそが付加価値の源泉であるので、やはり大量に売ることができない。結局、サービス業は、短期間に大量に供給し、規模を拡大するのが難しいビジネスである。そこで、規模を確保するには、次のメディア化するかしか方法がない。

○ サービスビジネスのメディア化
サービスビジネスが規模を大きくしようとすると、どうしてもメディアを上手く活用しなければならない。メディアを使ってブランド認知を広めるフランチャイズ化。あるいは、リアルなサービスの一部の機能をネットやメディアに置き換える「サービスのメディア化」。

例えば、飲食店を紹介するフリーペーパーは、サービスのメディア化事業だ。フリーペーパービジネスは、「社長!」と町行く人に声をかけ、一人送客することで店から数千円もらう「ポン引き業」という規模の出ないサービス業を、メディア化することにより、何十億もの規模のあるビジネスにしている。

また、オンライン証券会社も、サービスのメディア化だろう。昔は、証券マンが個別に顧客に対応して、証券の売買をしていたけれども、その証券売買サービスをネットというメディアを使って、安く大量にこなし、規模の拡大を行った。

○ メディアビジネス
メディアビジネスは、インターネットの普及により、劇的に変化・拡大している。メディアビジネスの特徴は、ものすごく速いスピードで、大規模なビジネスにつながる可能性をもつ。メディアは、情報を扱い、「情報の限界生産費は、実質的にゼロである。」(今井賢一)ので、複製可能性が高い。つまり、一度出来上がったコンテンツを大量に普及させるのが容易で、量とスピードを確保しやすい。Googleが、数年で巨大企業になったのは、強烈な印象を与えた。

しかし、一方で、YahooとGoogleを除くほとんどのネットビジネス企業が、今、成長の限界に直面し、株価が低迷している。それは、メディアビジネスの本質、情報ビジネスの本質に由来しているようにみえる。

情報は、複製が容易なだけに、大量に供給されやすい。従って、一時ブームになっても、大量供給によって、短期間に価値が下がる。また、情報そのものは、物理的には全く劣化しないが、情報を受けとる者にとっては、同じことを二回目に聞いても価値は、半減する。つまり、ユーザーにとっての価値でいうと陳腐化、劣化が起こる。そして、リアルのサービスやモノビジネスに比べ、バーチャルなだけあって、身にしみる深いありがたみを長期間ユーザーに与え続けるのが難しい。また、メディアビジネスの中心である広告ビジネスでは、リーチ数にどうしても依存するので、同じ人口のマーケットにいる限り、顧客単価を上げられない。

つまり、メディアのビジネスは、複製可能性、陳腐化、ヴァーチャル、顧客単価天井という特徴を本質的にもっている。従って、長期でみると売上げが上限をうち、規模の天井にぶつかる。

○ メディアビジネスのモノ化
顧客単価が伸び悩み、売上げが逓減してきたメディアビジネスは、そういう上限のないモノビジネスにどうしても目を向ける。今、テレビの各キー局は、テレビ通販を自社または、自社の子会社で取り組み始めた。また、ネット企業も、ある程度の規模を確保しようとすると、モノビジネスに近づいてくる。楽天も、モノの売買をネットで行う場の提供ビジネスで規模を拡大してきた。

ネットビジネスにおいては、従来のバナー広告などのユーザーへの認知(リーチ)だけで売上げをあげる方法から、どんどん、リアルの売買の世界に近づくことによって収入を得ようとしている。バナー広告から、アフィリエイト(成果報酬型広告)へ、アフィリエイトからリスティング(検索連動型広告)へ、リスティングから具体的な購買の販促へと、ネットビジネスの収益源が推移しているのも、メディアビジネスのリアル化・モノ化と言えるだろう。

そもそも、インターネットというのは、ただの世界から出発しているだけに、ネットビジネスでは、純粋にネットの中だけで儲るのは、ますます難しくなっている。そこで、アフィリエイトやリスティングというのは、ユーザーへの認知だけでなく、よりリアルな購買行動にどれだけ結びついているかをクライアントへの提供価値にしようとしたものである。

もう一度、おさらいをしてみよう。
・モノのサービス化   → 利益率アップ
・サービスのメディア化 → 顧客数アップ
・メディアのモノ化   → 顧客単価アップ
そして、一般的に、次の数式が成り立つ。
ビジネスの利益=顧客単価×顧客数×利益率
(ここまでモデルを極端に単純化すると、適用外を挙げればきりがなくなるが、ビジネスをみるときの一つの補助線になればと思う。)

従って、モノビジネスのサービス化、サービスビジネスのメディア化、メディアビジネスのモノ化と、それぞれのビジネスの長所を活かして上手く融合できたものが新しいビジネスを創造できる。つまり、消費者へのパワーシフトが起こる中、従来のモノビジネスに対立するのではなく融合する形で、情報化に対応したメディアの活用、サービス化に対応したサービスビジネスの活用にたけたものが、これからのビジネスで成功する。

それでは、もう一度、モノ、サービス、メディアの本質について、いくつかの軸に沿ってその本質を探ってみる。

○ 有形―無形軸
有形―無形という軸で見ると、モノが有形、サービスが無形、その中間が、有形のモノと無形の記号をつなぐ文字通り「媒体」であるメディアである。

○ 固有性―複製可能性軸
固有性―複製可能性という軸で見ると、サービスの固有性が強く、反対に、メディアの複製可能性が高く、モノが中間である。ちなみに、「情報の限界生産費は、実質的にゼロである。」(今井賢一)

○ ヴァーチャル-リアル軸
ヴァーチャル-リアルという軸で見ると、メディアが最もヴァーチャル性が強く、反対に、モノが一番リアルであり、サービスがその中間である。

このようにしてみてみると、既存のモノビジネス内、メディアビジネス内の違いもよく分かる。例えば、デジタル技術を使った電子機器類は、デジタルという記号的性質を強く持った技術だけに複製可能性が強く、中国などへの生産シフトが起こり、高技術にもかかわらず、大量供給と陳腐化による低価格に悩まされている。

また、メディアは、記号とモノをつなぐ「媒体=メディア」であるため、実は、モノとしての有限性も持っている。テレビでは、電波が有限であるために、それを寡占的に利用できる地上波テレビ局が、高い利益率を享受できたりする。このあたりが、実質的に物理的上限を持っていないネットとの大きな違いになっている。

さらに、ビル=ゲイツが出した「サービス化の波」と題する重要なmailの意味を考えることができる。

つまり、今現在自分たちのしているビジネスが、モノ、サービス、メディアの中で、どのような位置にあるのか、そしてそこからどこに向かうべきか、ということをこの図をもとに考えていけば、なにかしらのヒントになるのではないかと思う。

以上のアイデアは、僕が以前に書いてきたことのまとめであり、且つ、その状況認識に基づく建設的な提案のラフスケッチである。
参考までに、関係する以前に書いた考えのいくつかをあげておく。
中世化するビジネス(2007年12月26日)
サービスのメディア化(2007年4月8日)
サービス業とネット企業の成長の限界(2006年8月28日)
サービス化の波(2005年11月23日)

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この記事へのコメント

Chris-chan
2008年07月24日 20:07
らくちんさん、こちらこそコメントありがとうございます。自分が今、やろうとしていること、またその大きな課題が客観的に分かったので感謝です。「モノ売り」と「メディア」に、どう「サービス」を絡めるかがポイントになりそうです。
らくちん
2008年07月24日 07:01
Chris-chanさん、コメントありがとうございます。長くて分かりにくい文章なのに、そう言っていただくと、本当に嬉しいです。この話、一見抽象的にみえますが、現場で苦労されている方が、「分かりやすい」と言って下さるのが、面白いところです。
Chris-chan
2008年07月22日 12:42
自分がオボロげながら感じていたことを、非常にスッキリ纏めて頂き、教えてもらいました。いつも鋭い内容を分かりやすく書いて頂き、ありがとうございます。

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