グリーンスパン「波乱の時代」

正月休みに読みました。現職中のあのもってまわった言い回しすべてが、実は、彼一流のジョークだったのではないか。そう思わせるほど、この本は、率直で、エンターテイメントにあふれている。そして、データに基づいた確かな見識は、今と将来を見据えるのに役に立つ。新年にあたっての挨拶やコメントをしなければいけない人は、下巻だけでもめくれば便利では、なかろうか。

あくまでデータと各産業の歴史と構造といった、ミクロから経済を理解する姿勢で一貫しているのは、ちょっと芸術的なほどだ。長くなりますが、自分の備忘の意味もこめて、面白いところだけ抜書きしておきます。

・プロポーズ(妻のアンドレアとの結婚について)
わたしが例によって曖昧模糊とした言葉で話すので、三回目のプロポーズでようやく意味が理解できたというのがアンドレアのお気に入りの冗談だが、この場を借りて誤解を解いておきたい。理解してもらえたのは、三回目ではなく、五回目のプロポーズのときだ。あと二回は、まったく気づいてもらえなかった。
(らくちんコメント)爆笑

・経済成長の鈍化
最先端の技術をもつ国では、労働生産性を長期にわたって年平均三パーセントを超える率で高めていくことはできないようだ。
(らくちんコメント)「中世化する経済」で述べたとおりなので、ほっと安心。

・収益性資産に対する権利と感情
残念なことだが、資本と収益性資産に対する権利を否定する見方はいまでもあり、利益の追求は非道徳的だとする感覚が残っている社会では、とくにそうした見方が強い。財産権を確立するのは、何といっても、資産を保護し、その資産を活用して利益を追求できるようにするためである。
(らくちんコメント)村上ファンドへの判決とかは、思いやられます。

・ 信頼と評判
取引相手に対する信頼が強いほど、蓄積される富は多くなる。信頼に基づく市場のシステムのもとでは、評判の経済的な価値は高い。評判は企業の貸借対照表にも「のれん」として正式に計上され、企業の市場価値に大きく寄与している。評判と、それがもたらす信頼は、市場資本主義に必要な要因の確信だとわたしは、つねに感じてきた。法律はせいぜいのところ、市場での日々の活動のうちごく一部を規定できるにすぎない。
(らくちんコメント)企業は、社会や消費者とのコミュニケーションがますます大切になる気がします。

・ 「オランダ病」
天然資源が豊富だと、「オランダ病」と呼ばれる問題をかかえて経済が低迷する危険がある(「オランダ病」とは、1970年代にエコノミスト誌が使って有名になった言葉であり、天然ガスが発見された後、オランダの製造業が陥った苦境を表現したものである)。オランダ病にかかるのは、資源の輸出が好調になり、その国の通貨が高くなる場合である。通貨高になれば、他の輸出産業は競争力が低下する。
(らくちんコメント)これって、日本の大手企業も同じ病にかかっていないだろうか。資源ビジネスで急に巨額の利益を出している商社、テレビ向け広告で稼ぐ広告代理店、多角化が遅々として進まない自動車メーカー。通貨の媒介こそないものの、どの会社も強いビジネスが儲かりすぎて、他の分野のビジネスに腰をすえて経営資源を投入できていないのは、オランダと同じ状況だ。

・ 経済成長と幸福度
所得が増えれば、確かに幸福度も上がるが、それは、基礎的なニーズが充たされる時点までで、しも一時的であり、それを越えると、幸福度は相対的なものになり、長期的には、経済成長とは、ほぼ無関係になることが事実によって示されている。生存に必要な水準を超えれば、幸福度は人それぞれの人生観や、人よりどれだけ豊かになれるかで決まってくる。(一文略)幸福度は、物質的な豊かさそのものよりも、対等だと思える周囲の人や同僚や目標とする人の豊かさとくらべてどうか、といったことにはるかに大きく左右される。
(らくちんコメント)
確かに、所得の多寡よりも、持続的な成長実感や、他人に認められているといった感覚が幸福度につながるのでしょう。

・ 経常収支と債務
市場経済では、債務は、経済が進歩するとともに増加するのである。正確にいえば、分業と職業の専門化を進め、生産性を高め、結果として所得に対する資産と負債の比率がともに上昇するかぎり、所得に対する負債の比率はほぼつねに上昇する。したがって、家計の所得・負債比率、あるいはGDPに対する非金融(セクターの)債務比率の上昇は、それ自体では、圧力の指標にはならない。
(らくちんコメント)分業が進めば、負債の比率が高まるのは当然で、それだけで悪いわけではないというのは、面白い。

・ 豊かな世界の二つの懸念
近年、世界は物質的に進歩したが、その勢いを持続できるかどうか否かについて、わたしは二つの重大な懸念を抱いている。第一の懸念は、所得の集中の加速であり、これは民主社会の結束と安定に対する脅威である。こうした格差は、政治的に得策だとされて、経済的に最悪の結果をもたらす反動に火をつけかねないと懸念している。第二の懸念は、グローバル化の過程のなかで避けられない経済の減速の影響である。これにより、世界の成長率が低下して、ソ連の消滅から生まれた資本主義に対する広範な支持が縮小しかねない。
(らくちんコメント)成長の鈍化と格差の固定化は、「中世化する経済」で指摘したとおり。

・ 金融機能の重要性
あらゆる財とサービスの価格には、その財とサービスの生産、流通、マーケティングにかかる金融サービス費用が含まれている。こうした金融費用が、価格に占める割合は実質的に上昇しており、金融のスキルをもった人びとの所得を急速に高める要因になっている。
(らくちんコメント)非金融セクターにおけるビジネスにおいても、金融機能が、ますます重要になってきているのは、ひしひしと実感します。

・ 中国の労働力の世界経済への投入
(冷戦終結と前後して、ロシア、インド、中国の労働力が世界の市場経済に一挙に組み入れられた)ほどなく十億人を軽く超える労働力が、しかもその多くは、教育水準が高く、低コストの労働者が、中央計画経済をほぼ全体か一部に取り入れ、世界の競争から切り離されていた経済から、競争の激しい世界市場へ流入しはじめた。
(中略)このように労働者が市場に流入したことで、世界的に賃金が下がり、インフレ率が下がり、予想インフレ率が下がり、金利が下がり、その結果、世界の経済成長率の上昇におおいに寄与した。
(中略)世界の経済見通しと政策立案者にとって決定的に重要なのは、労働人口の移動が完了する時期ではなく、移動率が下がりはじめる時期であろう。(中略)転換点がおそらく三年後かそれより前になるかもしれない。

(らくちんコメント)ニューエコノミーとか色々いったけれども、実質的に世界経済に一番効いたのは、中国の労働力の大量投入だったと思う。それを、インターネットの普及や、香港、台湾、シンガポールの華僑系の経営ノウハウが支えた。それにしても、この流れの転換点が三年後というのは、速いというべきか、そこまでもつのかというべきか。

・ 投資のアノマリー
投資に成功するのは、むずかしい。友人のウォーレン・バフェットのように、歴史的に特に成功した投資家のなかには、現在、さかんに論じられているアノマリー(合理的には説明できない超過収益)に早くから気づいていた人がいる。購入した株式を超長期にわたって保有すれば、リスク調整後ですら、株式のリターンがリスクの低い債権や他の金融商品を上回る、というアノマリーである。「私が好む投資期間は永遠だ」とバフェットはインタビューで答えている。市場は、ウォール街でいう「安眠できる水準」を超えて保有株の時価が変動するのに耐えようとする者に対して、プレミアムを支払う。
(らくちんコメント)何度聞いても、至言ですなあ。

コンサルタント業から成り上がって来た人だけに、やっぱり、打ち出し方というか、プレゼンは上手いですよねえ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

驚いた

この記事へのコメント

らくちん
2008年01月08日 20:57
松永さん、コメントありがとうございます。ちゃんと進めば、いずれ、インドも中国も中世化するのでしょうね。しかし、中国は民主化なしで、インドは製造業の興隆なしで、先進国とは、別の経路進んでいるようにもみえます。興味津々ですね。
松永
2008年01月08日 05:19
今日のエントリーを見ながら、もう一度中世化する経済を読ませていただきました。初見では分からなかったことが少しだけ理解できたような気がします。日本が中世化するというのは避けられないことなのですね。将来、インドや中国も中世化する時がくるのでしょうか。

この記事へのトラックバック

  • グリーンスパンの「私の履歴書」

    Excerpt: 日経新聞に掲載されているグリーンスパンの「私の履歴書」が、彼の著書「波乱の時代」の抜書きに過ぎず、大新聞としてみっともないと、ぐっちーさんが、批判されている。 Weblog: らくちんのつれづれ暮らし racked: 2008-01-16 07:19
  • 「サブプライム」損失拡大、世界市場に影響

    Excerpt: 1月16日14時31分配信 読売新聞  米低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」を巡る欧米金融機関の損失拡大を受け、世界の市場に影響が波及している。  15日の欧州、米国市場の株安.. Weblog: 採れたてニュース・オンライン,グリーンスパン「波乱の時代」 racked: 2008-01-16 23:17