台湾・陳水扁総統の政治危機

台湾の陳水扁総統が窮地に立たされている。いわば、反体制エリートの挫折である。呉淑珍・総統夫人が総統府の公金流用で起訴され、野党は、総統退陣を求めている。陳水扁総統は、夫婦の好印象とクリーンさをアピールしてきただけに、今回の事件は痛い。与党内や与党連合の台連にも同調者がでており、蘇貞昌行政院長(首相)が辞職の意向だと報じられている。

陳水扁氏は、貧乏な家庭から苦学して台湾大学法学部に主席で入学、弁護士となり、反体制運動に身を投じた。活発な呉夫人は、資産家の家族の反対を押し切り陳氏と結婚、陳水扁の政治的活動を支え続けた。この政治活動中に呉夫人は、体制側の支持と思われる自動車事故で下半身不随となった。呉夫人の車椅子を押す陳総統の姿は、有権者にアピールしてきた。

陳水扁氏は、連戦、宋楚瑜などの政敵に比べ、最も金銭的にクリーンな政治家だろう。李登輝前総統と比べてもクリーンではないかと思う。そのクリーンなイメージを最大限使って、呉夫人と二人三脚で選挙を戦ってきただけに、今回の公金流用事件で夫人が起訴されたのは痛い。

陳水扁氏は、変な言葉だが、反体制エリートともいえる。非合法だった頃から生命をかけて反体制運動をしてきた歴戦の活動家は、野党が合法化されると、戦闘的過ぎて気難しい印象を与え、大衆の支持を広げることができなかった。そんな野党政治家の中で、陳水扁氏は、自らを「阿扁」(「扁ちゃん」)と呼び、台北市長時代には、娯楽的行事を積極的に行うなど、親しみやすさを前面に出して、抜群の大衆的人気と選挙の強さを誇った。そして、夫人の事故があるので、反体制活動家としての苦労が足らないとは言われない。意外と台湾では重視される学歴も申し分ない。いわば、合法化後野党のエリートである。

僕は、2000年から2005年まで台湾にいたので、陳総統の就任時の高い人気から、次第に支持を失っていく過程をみてきた。そして、とうとうここまで来たかと思ってしまう。僕が、当時から、陳水扁氏の政治手法に感じていた弱点は、一番大切なことをちゃんとしようとする余り、二番目に大切なことへの配慮が足らないというものだ。エリート理論家の欠点というべきか、批判勢力育ちの弱点なのか。

安全保障については、民主主義を守ることが、台湾の安全のために最も大切だ。しかし、それに加えて必要な、アメリカ政治へのロビー活動とか、自衛の努力とかにちゃんと手当てができていない。外交では、台湾にとってアメリカが一番大切なのは、間違いない。しかし、その次くらいに重要な日本への配慮が少なく、政権発足時に知日派が政権内にいなかった。今回の金銭からみの件も、一番大切な、自らのクリーンさには、十分気をつけていたろうが、その次に重要な、娘婿と夫人という家族の行動への配慮が足らず、事件の端緒となってしまった。

この辺りが、批判者としてのエリートの欠点であり、建設的実行者としての経験のなさの表れだと思う。建設的実行者として優れた経営者を見ていつも思うのだが、思いもつかないほど目立った理論や方策ではないのだが、メリハリのある判断を全分野でバランスよく実行している。それは、二番目に大切なことにも配慮して行動することではないかと思う。

そう思うと、人のやっていることに批判ばかりして悦にいっている僕も、反省させられる。

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この記事へのコメント

陳水扁さん と 韓国などの栄誉博士号
2007年05月16日 15:36
http://info.gio.gov.tw/ct.asp?xItem=15050&CtNode=3483&mp=1
 中華民国(台湾)行政院新聞局

 陳總統簡傳

 
  相關著述及榮譽學位

  計獲有
  韓國慶南大學榮譽法學博士、(韓国)
  韓國龍仁大學政治學榮譽博士、(韓国)
  俄羅斯經濟學院經濟學榮譽博士、(ロシア)
  宏都拉斯自治大學榮譽博士 及 (ホンジュラス)
  巴拉圭亞松森大學榮譽博士等榮譽學位。(パラグアイ・アスンシオン大学?)
らくちん
2006年11月08日 00:29
そうですよね。陳水扁氏も、いくら注意深くてもできなかったことも多かったと思います。つらかったでしょうね。
かんべえ
2006年11月07日 14:43
ワシントンで聞いた話ですが、「台湾ロビーは国民党時代に育ったものだから、民進党政権に対しては本気で働いていない」と言ってる人がいました。野党育ちは、なかなか難しいですね。

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