放送と通信の融合:まとめ

放送と通信の融合について、テレビさんとネット君の往復メールの形で、5回()続けたものの続編です。今日は、ネット君が、最後にいままでの議論をまとめてみたメールです。

テレビさんへ
テレビの製作の現場におられる方の「とにかくユーザーの視点にたつべし」というお言葉は、耳に痛いものでした。確かに、テレビさんが、はからずも触れていたように、テレビの「視聴者」は、ネットの「ユーザー」ほど、能動的ではなく、単に「視聴」する人なのです。そういう地に足ついた意見を言ってくださる同僚の方が社内におられるのもうらやましく思いましたし、それを真摯に受け止めるテレビさんにも感心しました。

最近思い始めたのですが、テレビ局では、経営・行政面をされている伝統的・保守的なスタイルの方と、製作を担当されている実に自由で創造性がある方とが、仲良く協調しているところがすごいですね。きっと内部では、摩擦もあるのでしょうが、外からみていると、経営・行政を担う社員のテレビ映像への愛情を感じるし、製作現場の社員には、業績に対する気遣いを感じます。ビジネスモデルとしては、特権維持を目指すハリネズミ型でありながら、実際の業務の大半を占める番組製作の現場では、創造性と新規性がもとめられる。その矛盾した業務の要求を、うまく社内で統合しています。ソフトとハードの分離論というのは、そうした性質の違う仕事を分離した会社にしようという動きでしょうが、日本のテレビ局の存在意義は、実は、その矛盾を社内で統合していることにあるのではないかとさえ思い始めています。テレビ業界のこの伝統と、創造性の両立が、ネットには、少しうらやましい。

ただご批判いただいた点でいうと、ネットとテレビの影響力の違い、ユーザー層、ユーザーの姿勢の違いなどを理解すべきだということは、私自身は、すでに相当考慮しぬいているつもりです。前回の私のメールでの説明は、直ちに放送と通信が融合するのではなく、通信の側からは、Web2.0という動きで、融合の領域に浸透し、それをふまえて放送の方では、Media2.0という動きで、融合の領域に浸透するというものです。実際、このように漸進的な考えをもつのは、ネットの世界では、むしろ少数派かもしれません。私の対極に有るもっとアナキーで過激なネットの人々は、直ちに融合してネットがテレビを飲み込むのだという発想であることは、テレビさんもご認識いただいた方がいいと思います。脅すわけでは、ありませんが。

さて、この往復メールも今日で一区切りということですので、これまでの議論をまとめてみようと思います。まず、制度上の問題、その次に、ビジネス上の問題、そして、結局、どのようなサービスなのかという説明をします。

放送と通信の融合で、最も重要な具体的な制度上の問題を挙げると次のようなものといえるでしょう。

○ ハイビジョン画像伝送問題:
ハイビジョンの動画像をネットのインフラでどう送るのか。いつ送れるのか。
(シリーズ 2回目参照 ココ

○ コンテンツの権利問題:
テレビのコンテンツをネットでどう配信できるのか。 (シリーズ3回目 参照 ココ

○ 地方局:
これまで述べませんでしたが、地方局というのは、その地域のオピニオンリーダー及びその親戚の集まりのようなもので、地域コミュニティーの核的存在です。これが、デジタル化、IP化で変な形で崩壊すると、地域に修復不可能な問題をおこすように思えます。

これらの問題は、いろんな点で重なって顕在化します。例えば、地上デジタル放送の視聴しにくい地方に、ハイビジョン画像を光ファイバーで配信する場合など、ハイビジョン画像をネットでどう配信するのか、そのとき著作権はどうなるのか、地方局の経営基盤が崩れないかなどと、上の三つの問題が複雑にからみあってきます。

それとNHKをどうすべきかという議論は、重要ですが、やはり上記3つの議論を尽くして、その上でNHKをどう位置づけるかという順序でつめるのがまっとうな進み方でしょう。

次に、ビジネスでみたときには、結局、お金になるのは、広告、ショッピング(通信販売)、有料コンテンツの三つの道筋しかない訳です。これだけで、もうひとシリーズかけるくらいなので、ここでは、充分に議論する余裕がなく、とりあえず問題提起だけをしておきます。少し時間をおいてから、書けるといいですね。

○ 広告
ネットの広告費がもうラジオを越えて成長してくるなかで、テレビでは、HDDレコーダーによるCM飛ばしが問題になっています。また、現状のテレビでの広告は、ほとんどがマスに対して、一方的にばらまく情報です。一方、ネットは、成果報酬型や、ターゲッテッング型の広告など、絞った人数に少し双方向通信の要素を加えたものになっています。これが、今後、放送と通信の融合のなかで、どうなるかがみものです。また、テレビさんが指摘した、ブランド構築のためのプロモーション、言い換えれば、「買わない人への広告」をどうするのかも重要です。

○ ショッピング
地方局や衛星系の局など、視聴率、視聴者数が少ないテレビ局ほど、スポットの広告がとりにくいだけに、ショッピングの重要性が、ますます高まっています。BS放送などを見ていると、ショッピング番組がすごく増えていますよね。ネットによる映像コンテンツの提供は、きっと衛星系の局以上に視聴者数をとれないでしょう。また、放送と通信の融合は、結局、ユーザーがみられるチャンネルが増えることを意味するわけで、その場合、一局あたりの視聴者数が減ることになります。従って、融合が進むほど、番組あたり、局あたりの視聴者数の少ない場合が増え、広告よりもショッピングがますます重要になるでしょう。尚、ショッピングにおいて、テレビさんの指摘にあったように、テレビと携帯電話のネットとは、そもそも親和性ガ強く、その連携は、豊かな可能性があるでしょう。
 
○ 有料コンテンツ
これには、視聴一回につきいくらと払うVODも、月額定額の会員料方式も含まれます。受信料をもらうNHKは、むつかしいところですが、有料コンテンツと言えるでしょう。興味深いのは、先に述べた広告収入を得るには、コンテンツを磨かなければなりません。そういう意味で、製作の現場では、広告モデルの映像製作の現場と有料コンテンツの現場と、感覚は似てきます。また、コンテンツという商品を売っているという意味では、有料コンテンツは、ショッピングとも似ています。決済をどうするかといったことが、共通の問題になります。このように、有料コンテンツは、先の二つの広告モデルとショッピングモデルの両方に共通する点を含んでいます。

また、有料コンテンツの議論は、様々な学者が興味をもった「情報の経済学」と関連しています。例えば、「情報の文明学」(なんと初出論文は1960年代のものがある)の著者の梅棹忠夫氏は、情報の価格決定法は、お布施の原理が参考になると言っています。これなどは、現在のNHK受信料の実態にかなり似ているのではないでしょうか。NHK受信料もお布施も、財力があって、信心の深い人が、多く払うのです。

放送と通信の融合の最終的な結論としては、やはり、双方向性への対応がかぎとなるでしょう。それは、テレビにおいて、ネットの双方向性とどう協調するのかということを意味します。その一つのアイデアは、テレビとモバイルとの協調です。もう少しネットによった方法、つまり、Web2.0に近い発想で一つ例をあげると、番組表のメタデータなどは、面白い材料でしょう。

このテレビさんとの往復メールをやっていて、思い出したことがあります。昔、僕たちネット屋は、通信とネットなんて、これから区別できなくなるって言っていました。ところが、電話などの通信をやっていた技術者や事業者から、君たちネット屋の発想は、どうもいいかげんだから、一緒にしないでほしいって、いつもしかれていました。でも、いまや、世間では、ネットと通信なんて区別していません。今回のように、放送と通信の融合って御題目の議論に私のように根っからのネット屋の話を聞いてもらえるのがいい証拠です。ですから、今、放送と通信の融合と言われて違和感があっても、きっとそれは、近いうちに解消できると、ネット屋としては、確信しています。

これまでの議論を振り返ると、感慨深く思います。放送と通信の融合は、単なる通信手段の融合だけでなく、規制の融合であり、官庁の融合であり、業界文化の融合であり、世代の融合でもあります。そして、人によっては、仕事とプライベートの融合につながるのかもしれません。

ネット拝

(放送と通信の融合:テレビさんとネット君の往復メール 終わり)

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