放送と通信の融合:四つの形態

前回前々回に続いて、放送と通信の融合の話です。ご興味のない方には、申し訳ございません。別のコラムもはいりますが、あと数回は、続いてしまいます。今日は、テレビさんからネット君への説明です。

ネット君へ
忙しいのに、丁寧な返事をありがとう。本当に君たちが背負わされている天文学的な時価総額を、もし我々テレビ屋が背負わされたら、すぐさま卒倒してしまうだろうね。繰り返すけれども、精神的にも体力的にも君たちのタフさに驚くよ。AOLがタイムワーナーと合併したのも、自分たちの株価は、高すぎるという自覚があって、だからこそ準備不足のまま、合併に急いだんじゃないだろうか。その点、確かに君が指摘するように、テレビというのは、囲われた業界のなかで安定しているけれども、使える電波が僕たちの努力で増えるわけではないから、成長性に限界がある。だから、株価、すなわち、時価総額があがらないのだと思う。前回、プレゼンの仕方について説教くさいことを言ってしまって申し訳なかったが、ネット君は、ネット君の流儀で、私には、話して欲しいと思う。私も今回はできるだけ君の時間をとらないように、前置きを短くして話そうと思う。そのほうがいいのだろう?

さて、放送と通信の融合の話だけれども、確かにハイビジョンの動画像をネット経由で放映するという点では、2年後くらいに、ネットは、放送に追いつくのだろうね。ただ、君も挙げているように、放送と通信の融合の件では、それだけにとどまらず、伝送路の問題、端末の問題などが、密接にからまっている。ハイビジョンの動画像の通信にだけ焦点をあてて、全体像を見落としてはいけないと思うよ。諸君!木だけではなく、森を見よう。

そこで、放送と通信の融合についての全体像をみるために、総務省の説明を見てみよう。

放送と通信の融合には、4つの形態がある。
1) 端末の融合:一つの端末を、通信と放送の両方に使うこと。
2) 伝送路の融合:一つの伝送路を通信と放送の両方で使うこと。 
3) 事業体の融合:一つの事業者が、放送と通信の両方の事業を行うこと。
4) コンテンツの融合:一つのコンテンツを通信と放送の両方に使うこと。
(例えば、昨年の情報通信審議会の中間答申など。同じような表現は、何年も前からお役所の文書に繰り返しでている。6年ほど前の総務省の文書を読むと、4)が「サービスの融合」になっているのは、興味深い。)

この分野での総務省の説明は、規制緩和は既にできているという言い訳と、2011年の地上波デジタル完全移行に関心を向け勝ちなところが、正直言って、わずらわしい。けれども、この四つの項目を挙げていることは、全体像をよく見せているので、これに、私なりの説明を加えてみたいと思う。

○ 端末の融合
端末の融合とは、一つの端末を、通信と放送の両方に使うことで、例えば、テレビでインターネットを利用するとか、最近出たワンセグ放送のように携帯電話でテレビを見るとかなどだ。注意して欲しいのは、テレビでインターネットをしている人は、少ないけれども、パソコンでテレビを見ている人は、既にたくさんいることだ。例えば、パソコンテレビのGyaoでは、既に730万人が登録していて、ネット経由テレビのコンテンツをパソコンで見ることができる。

結局、ポイントの一つ目は、パソコンという端末では既に融合ができちゃっており、今後の課題は、テレビという端末でインターネットをどう利用するのか、そのためのどういう端末がいるのかということになる。二つ目のポイントは、ネット君が説明してくれたようにネット経由H.264 などで配信されたハイビジョンの動画を、ちゃんと読み取る機能を端末がもつかどうか。そのときに、4)で述べる著作権保護のための装置をどう装備するのかということになる。

○ 伝送路の融合
伝送路の融合とは、一つの伝送路を通信と放送の両方で使うことで、例えば、インターネット用の光ファイバーで動画像を配信することなどだ。

この件は、放送法の受委託制度や、電気通信役務利用放送法なんかがあって、法規制がややこしい。特に、ネットでの伝送というのは、ユーザーの地域を特定できないので、対応が必要だろう。地上波というのは、届く距離に限界があるからユーザーの地域を特定できる。ケーブルテレビだって地域が限定できる。衛星放送は、受信端末によって、ユーザーを特定できる。このように、放送が地域性とユーザーを特定できることによって、領域を区分しその領域にあった規制をしているのが、今の放送の法規制の基盤になっている。しかし、ネットで伝送し始めると、全国、いや、世界中どこでも見られることになるし、それを逆に、ユーザーの地域によって区分して規制するのは難しい。これがポイントだ。

もう一つのポイントは、ネット君が前回説明してくれたようにマルチキャストのインフラを整備できるかどうかだろう。Gyaoは、マルチキャストではなくて、一対一通信のユニキャストで、大量に動画像を送信するので、回線を半端じゃなく大量に占有してしまう。今、プロバイダーは、Gyaoに「インフラのただ乗り」だって批判し始めているらしいね。Gyao一社でこんな議論がでているのに、将来、多くの事業者が、ユニキャストでハイビジョン映像を配信始めらたら、相当大変な問題になるだろうね。

○ 事業体の融合
事業体の融合とは、一つの事業者が、放送と通信の両方の事業を行うことで、言うまでも無く、楽天とかライブドアとかの動きのことだよね。電話、インターネット、放送の三つのサービスを提供するのを「トリプル・プレイ」なんていって喜んでいるけれども、それも関係する。

AOLとタイム・ワーナーの合併がこの事業体の融合の最大の失敗例だろうね。この件では、色々いいたいことがあるけれども、結局、果物屋と魚屋の合併のようなものだったね。お客さんを共有できるからシナジーがあるだろうって、余り考えずに合併したところ、お客さんから、魚くさい果物も、熟して三日おいたさしみも不評だった訳だ

この点では、ネット企業の動きが華々しく報道されるけれども、実は、NHKとNTTが重要だね。特殊法人のNHKとNTTは、いわば半官半民の会社で、事業内容が制約されている。しかし、この二つ会社は、業界内のジャイアンツなので、事業の制約をどう変えるかによって業界地図ががらっと変わってしまう。NHKは、ビジネスの面でみても、放送業界のジャイアントなんだよ。NHKの収入は、約5600億円、これに対して、在京キー局5社を合計しても、1兆2600億円。NHKと民放各社は、大人と子供くらい規模が違うんだ。

○ コンテンツの融合
コンテンツの融合とは、一つのコンテンツを通信と放送の両方に使うことで、例えば、テレビドラマをネット経由配信したりすること。最近アメリカでは、ブログで人気の高い動画像をテレビで放映するようなことも始まった。これなども、コンテンツの融合だろう。

ポイントは、著作権の保護をどうするかだ。テレビドラマをネット経由で配信しようとすると、今の制度だと、すべての出演者と個別に契約をしなおさなければならない。その手間だけで、大変で、結局、そこが障害で実現できていない。

もう少し詳しく見ると、現行制度では、インターネットでの配信によるものは、著作権法上、「自動公衆送信」で、テレビ放送などの「放送」と区別されている。「放送」の場合は、俳優やレコード会社に許諾を得る必要はなく、放送後に使用料を払うだけでいいが、「自動公衆送信」の場合は、事前に、俳優やレコード会社などへ個別に了解をとらなければならない。一つのドラマにでているすべての出演者の権利処理を個別にするなんて、現実的には、手間がかかって不可能に近い。民放3局が、テレビのコンテンツのネットでの配信をしようしたトレソーラという実験でも、そこが最大のネックになったんだ。ネット君たちが、テレビのコンテンツを活用するって、我々テレビの業界に乗り込んできたとき、我々テレビは、すでに十分その大変さを経験した後だから、なかなか難しいよって、ひややかにみていたんだよ。

そうはいっても、上にみたように、端末、伝送路、事業体の各層で、どんどん通信と放送の融合が進むので、テレビの業界の方も対応に困っているのだよ。ディズニーのようなコンテンツプロバイダーの対応を見てみると面白い。例えば、彼らは、ネット経由か、電波放送経由かいう伝送路の問題は、あまり気にしない。ネット経由でも、著作権を保護できるセットトップボックスをテレビに接続して見るサービスだったら、値段さえ折り合えば、コンテンツを提供する。まあ、番組提供しているケーブルテレビ局が一つ増えたのと同じだからね。ところが、インターネット経由パソコンでも見られるような話なら、コンテンツを提供しない。でも、この境界がだんだんあいまいになってきたから難しい。例えば、最近増えてきた、インターネットに接続できるテレビやHDDレコーダーを使って、ネット経由テレビの画面で見られるならどうだとかいいだすと、話がややこしくなって、夜も眠れなくなるよね。

少し脱線するけれども、この著作権の問題を解くには、本当は、情報の経済学に対する整理が必要だろうね。どういうわけか、二人とも若いときに書いているけれども野口悠紀雄とか村上泰亮の本が、参考になるよ。結局、情報の生産を効率的に行うためには、効率的な分業が行われなければならない。効率的な分業を行うには、市場原理を使うのが手っ取り早い。市場原理を使うには、情報という財を所有者が「占有」できるようにしなければならない。ところが、本来、情報は、複製性こそが本質で、「占有」にむかないものだから著作権などの制度で、「占有」を確保しなければならない。そのなかで、知的財産権を守りつつ、利用を促進できるのかというのが、難しいところだね。

短くしようとしたけれども、ついつい長くなってしまった。
繰り返すけれども、くれぐれも、わが身大事にしてくれよ。

次回に続きます。)

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この記事へのコメント

らくちん
2006年03月05日 23:14
いつも読んでいただいてありがとうございます。確かにテレビのコンテンツとは、完成度が違いますね。GyaOでマイナーなコンテンツを見ていて驚いたのですが、登場人物が話している途中にブチッと切れてCMが入るのがありました。まだまだネット側でも色々しなければならないようです。このあたりを次々回あたりで書けるといいのですが。
M.H.
2006年03月05日 01:37
初めまして、いつも楽しく読ませて頂いてます。
個人的にはネット君の話はまるで信用できません。よくネット配信の映画を利用しているのですが、ちょっとでも混雑するとすぐサーバーが止まる……せいぜい2Mbps程度なのに……あと数年間でそんなにすぐ状況が改善するようには見えません。
あと、テレビ局というのは一応コンテンツメーカーでもあるわけで、その為の人や文化の育成に時間をかけてきた歴史もあると思います。ネット側の人の言ってることは、「コンテンツ作れなくて苦しいから寄越せ」と、たかってるようにしか受け取れません。
私も、ネット発のコンテンツには期待しているのですが、育っていくのにはもっと時間がかかるのではないでしょうか。すぐに「追いつき、追い越せ」などといってられる状況ではないと思います。

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